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岡山家庭裁判所 平成11年(少)1136号 決定

少年 F(昭和○.○.○生)

主文

1  (平成11年(少)第1075号、同第1136号触法保護事件について)

少年を児童自立支援施設に送致する。

2  (平成11年(少)第1076号強制的措置許可申請事件について)

この事件を岡山県△△児童相談所長に送致する。

少年に対し、平成11年12月15日から向こう1年間の間に、120日間を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(触法事実)

少年は、

第1  平成11年6月8日午前9時40分ころから同日午前10時40分ころまでの間、岡山市○○町×丁目×番××号岡山市立a中学校×棟×階廊下において、同校教諭Aに花火の所持を注意されたこと等に腹を立て、同校校舎の窓ガラス3枚を割り、同所付近にあった同校校長Bの管理にかかる植木鉢12鉢を窓から下へ投げつけるなどして割り(被害額合計約9900円相当)、もって、他人の物を損壊し、

第2  同月19日午後零時ころ、前記a中学校2年生用下駄箱付近において、同校1年生C(当時13歳)に対し、先輩に対する態度が悪いなどと因縁をつけ、同女の顔面、下腿部、胸部等を手挙で殴打する等の暴行を加え、よって、同女に対し、顔面打撲、右下腿打撲等により加療約5日間を要する傷害を負わせ、

第3  同月26日午後11時30分ころ、同市○△町×番×号b店東側路上において、Dが他から窃取してきたバイク(ホンダジョルノ、○○か×××××号)1台を、それが盗品であることを知りながら貰い受け、もって盗品を無償で譲り受け、

第4  同年10月22日午後1時30分ころ、同市○□×丁目××番×号株式会社cデパートd店において、同店店長E管理にかかるアイライナー1個外1点(売価合計1600円相当)を窃取し

たものである。

(法令の適用)

触法事実につき、いずれも少年法3条1項2号(第1の事実につき刑法261条、第2の事実につき同法204条、第3の事実につき同法256条1項、第4の事実につき同法235条)

(処遇の理由等)

1  少年の生活状況等

少年は、実父母の1子として出生し、幼少時に両親が離婚したことから主に母親に養育されたが、母親の仕事の都合等で母方祖父母方に預けられることも多かったようである。母親の再婚相手や交際していた男性等との同居を経て、現在は母親と2人暮らしである。なお、少年が本件で観護措置を執られた後、母親が居住していたマンションを引き払っており、現住居地は、母親が身を寄せている知人方になっている。

名門の私立小学校に入学したが、小学6年生であった平成9年の秋ころ、母親が飛び降り自殺を図り、重傷を負って長期間入院することになり、そのころから、学校も休みがちとなり、食品の万引きやシンナー吸引等の非行が見られるようになった。中学校入学後は年長の不良仲間や他校生との交遊も広がり、レディース暴走族に加入し、中学の教師や他の生徒、同年代の行きずりの者等に対する暴行・傷害を繰り返し、児童相談所にも再三通告されたが治まらず、本件各非行にも見られるように傍若無人とも言える無軌道な行動をとる一方、精神的に不安定な面も見られ、自殺を企図してカッター等で自らの腕を傷つけたり、睡眠薬を飲んだりすることもあった。

少年に対し、児童相談所においても、これまで児童福祉司指導等の措置が執られたが、少年も母親もその呼出しに応じないなどその指導に服さなかったこと等から、児童相談所での継続指導は困難であり、少年を国立児童自立支援施設に入所させて落ち着いた生活環境の中で継続的な指導を行い、場合によっては少年を落ち着かせるために強制的措置が必要である、などとして本件触法送致及び強制的措置許可申請がなされるに至ったものである。

2  少年の性格上の問題点等

少年の知的能力は総合的にみて「中」段階である(IQ=84、新田中3B式)。感受性や想像力は豊かで、本来、思考力や洞察力も高いものと思料される。

表面的には明るく、快活に振る舞い、勝気・強気な面が目立つが、内面的には神経質で、情緒の不安定さがみられる。不安や混乱が強まるとそれが身体症状に転換されたり、衝動的な行動化を引き起こしやすく、爆発性・攻撃性は相当強い。また、内心には強い対人不信感や疎外感があり、自信に乏しく、将来の展望も持ちにくい。一方、負けず嫌いで、仲間内などでは虚勢を張って時には弱者を攻撃したり、わざと無鉄砲な言動をとって自己の存在を誇示することもあるが、独りになると落ち込み、強い不安や孤独感に苛まれることもある。

本件観護措置中、医師により「揮発性溶剤使用による精神病性障害」と診断されている。

3  検討

本件触法保護事件は、中学校における器物損壊(前記第1の事実)及び下級生に対する傷害(前記第2の事実)、並びに盗品バイクの無償譲受け(前記第3の事実)、化粧品の万引き(前記第4の事実)の事案であるが、これらは前記のような少年の非行の言わば氷山の一角であって、事案を軽く見ることは出来ない。

少年は、小学生のころから前記のような非行を繰り返し、警察に補導されるなどして再三にわたる指導を受けてきたにもかかわらず行状を改めず、児童相談所の指導にも服さずに放恣な生活を続けていたもので、総じて、少年の規範意識は著しく低く、法軽視の傾向は顕著で、不良仲間への依存性も強く、年齢に比してその非行性は相当進んでいる、と言わざるを得ない。

少年は、本件で観護措置を執られて自己の生活等を省みる機会を得て、当審判廷においても一応反省の態度を示し、今後は悪いことはせず、自宅に戻って真面目に学校に通うなどと述べているが、施設収容を極端に恐れていることもあって、自己の問題点等について、内省が十分に深まっているとまでは認められない。

少年の母親は、当審判廷において今後はきちんと少年の面倒を見る、などと述べてはいるが、従前は少年の食事の世話すら満足にせずに放任しており、母親自身、借金の問題や以前に交際していた暴力団関係者とのトラブル等もあるなどと供述し、住居や職業等も不安定で、本件で少年が観護措置を執られた直後に入院し、覚せい剤精神病ないし精神分裂病の疑いがあると診断されている等の事情からすれば、適切な監護が可能であるとは認め難く、少年も、母親に対する反発を強めて口論が絶えないなど、およそ家庭に落ち着けるような状況ではない。

少年の不遇な生育歴や保護環境には同情すべき点もあり、特に母親の従前の無責任な養育態度は目に余るものがあるが、これまで検討した諸事情からすれば、少年が今後も再非行に及び可能性は高いと言う他なく、現時点で少年を在宅処遇に付せば、その更生が著しく困難になるのみならず、少年が有する優れた資質を損なう結果になることも危惧される。

そうすると、少年の更生を期するためには、少年を施設に収容して継続的に指導を実施する必要があるというべきであり、少年の年齢やその非行の原因の一端が母子の葛藤に起因する愛情欲求不満にもあると思料されること等も考慮すれば、少年を強制的措置が可能な国立児童自立支援施設に入所させて、落ち着いた環境の中で心身の状態に留意しつつ、専門家により強制的措置も含めた必要な指導を実施し、少年の持つ問題点を改善し、その規範意識や自己統制力、社会適応力を高めさせると共に義務教育を全うさせ、その資質の伸長を図ることが相当である。

よって、本件触法保護事件については、少年法24条1項2号を適用して少年を児童自立支援施設に送致することとし、併せて、本件強制的措置許可申請事件については、同法23条1項、18条2項を適用して申請どおりこれを許可することとし(なお、強制的措置をとり得る始期については、少年が国立児童自立支援施設に入所が可能な平成11年12月15日とするのが相当である。)、主文のとおり決定する。

(裁判官 畑口泰成)

参考 送致書

中児相第×××号

平成11年10月21日

岡山家庭裁判所 殿

岡山県△△児童相談所

所長G

送致書

児童福祉法第27条の3の規定により、記児童を送致します。

児童

氏名

F(男・〈女〉)

生年月日

昭和○年○月○日生(13歳9月)

職業

学籍

岡山市立a中学校 2年生

本籍

岡山県御津郡〇〇町〇〇×××番地

住所

〒×××-×××× 岡山市〇□×××番地の

××× 〇〇×××号室

電話×××-××××-××××

保護者

氏名

H(男・〈女〉)

生年月日

昭和○年○月○日生(36歳)

職業

ホステス

本籍

岡山県御津郡〇〇町〇〇×××番地

住所

〒×××-×××× 岡山市〇□×××番地の

××× 〇〇×××号室

電話×××-××××-××××

求める強制的措置の内容及び期間

1年の間に120日の強制的措置を求める。

(予備的に児童自立支援施設送致決定を求める。)

強制的措置を必要とする事由

児童は、現在13歳で中学2年生であるが、入学当時からぐ犯を繰り返している。母親は、本児の養育について放任の状態である。児童相談所は平成11年6月に児童福祉司指導(児童福祉法27条による)を決定し再三本児を呼び出しているが応じず、触法行為はエスカレートており対応に苦慮している。現状での継続指導は困難であり、今後も同種行為を繰り返す可能性が非常に高い。

処遇意見

国立e学園に入所させて、落ち着いた生活環境のもとでの継続的な指導を行い、場合により、児童を落ち着かせるため強制的措置を必要とする。

参考事項

(1)両親は児童が3歳の時に離婚しており、現在父親との交流はない。母親の内縁の夫との関係は不良である。

母親は、児童を単独で別の部屋に住まわせ、食事の世話もほとんどしないなど放任している。

(2)学校においては、登校はするものの授業妨害、他生徒への暴行、対教師暴力や他校との喧嘩の煽動などにより、児童のために登校できない生徒も数名発生している。(別添同校校長からの意見書を添付)

(3)児童相談所は平成10年10月、平成10年12月、平成11年5月にそれぞれ中学生、教論及び女子大学生への傷害、暴力行為の児童通告書を受け、その都度呼び出し調査の働きかけを行った。しかしながら、ほとんど来所に結びつかず、平成11年6月に三件をあわせて児童福祉司指導(児童福祉法27条による)を決定した。継続指導決定後も指導に応じず、対応に苦慮している状態である。

(担当者 児童福祉司 I)

添付資料

児童記録(写)心理診断票(写)校長の意見書(写)

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